2009年05月25日

工事用フェンスが現れ、取り壊しますとの 貼り紙がなされたのは、先々月のおわりの 頃だった

うちの会社の前に
JIRO's CAFEというカフェがあって
JIROさんという名物おじさんと
美味しい珈琲(600円)がその空間にはあった。
たまにお客さんが来ると行った。
長浜の北川さんがいらしたときも行った。
あ、めぐちゃんが来たときも
藤倉社長とかわむと一緒に行ったね。

だけど、私たちにはいろいろな選択肢があった。
珈琲を飲むだけなら、
まず、会社の中にもカフェ280円があったり、
だけどそこはあまりにまずいから、
JIRO's CAFEの隣のビルの1階の
生活彩家の120円の珈琲のほうが
ずっと美味しいよっていって、みんな生活彩家に
通っていた。うちの木野勢君はそんな生活彩家に
行くのも面倒くさくなったのか、うちの会社に
珈琲メーカーを買ってそこでいれるようになった。

私はいろいろな選択肢はあれども、
JIRO's CAFEに行かないことに
多少心を痛めながら、でもあの古民家で
JIROさんが暗いカフェ(ほんと真っ暗なの)奥で
ギョロギョロした眼で座っていることに
安心していた。
きっと今日も座っているだろう。
せっかく来てくれた数人の客にも無愛想に
珈琲を入れるのだろう。
ミルクなんて出してくれなんだろう。
(JIROさんは自分のいれた珈琲をアホみたいに
ミルク漬けにしてしまう市民を心底馬鹿にしたような
口の曲がりがたをしている。=実際私はブラックが
苦手なのだが、結局一度も怖くてミルクをくださいと
いえなかった。)
そう想像していた。

JIRO's CAFEのある場所の両脇は
安田不動産管理の駐車場になっていて、
再開発予定なのだなと
みるからにわかる暫定利用地だったが、
私たちはなぜか心の中で
JIROさんの家だけは、ずっとカフェをやり続けて
死ぬまであのこだわりの珈琲をいれ続けるに
違いないと勝手に思っていたはずだ(った)。

このご時勢、
こんな細い利用価値の低そうな
路地に面した一区画に
経済合理性の失われた
まちづくり手法の大道が
訪れるなんて、そんな愚行は
いまどきあんまり信じられなかった。

元うちの会社のインターンで一番シニカルな
青年だった土方にこの話を昔したら、
「西本さん、どこまでお人よしなんですか?
JIROさんは安田不動産から立ち退き料請求し続けている
最中だから、出て行かないんですよ。」
といっていたのに、それでも私はなんとなく
そんなわかりやすい構図やら理由のわけはなかろう!
ずっとカフェをやり続けて
死ぬまであのこだわりの珈琲をいれ続けるに
違いないと勝手に思っていた。
そんな王道まちづくり手法と珈琲を同じ天秤に載せて
経済価値だけで測れるはずはないのだから
なんとなく、それは、そう思ってた。

ところがである。

工事用フェンスが現れ、取り壊しますとの
貼り紙がなされたのは、先々月のおわりの
頃だった。

わたしらの中に激震が走った。
私はいきなり、両脇の駐車場から
JIRO's CAFEをくるくる周って
脇から、前から、いろいろな角度で
JIRO's CAFEを撮った。

ただ、JIROさんにだけはどうしても
話しかける勇気がなくて、
珈琲も結局飲みにいけなかった。

周辺の人に
「JIRO's CAFE寂しいですね。」というと
「ねー。でも、引っ越される先では
珈琲やんないみたいだよ。残念だねぇ。」とのこと。
でも「珈琲やってほしかったねえ。」
とか、「馬鹿じゃねえのか、西本。あんなおやじ
みるからにカネのことしか考えていないじゃねえか。
バッカじゃねえの。お前、ほんと、よくそれで
まちづくりの仕事とか、してるなぁ」

・・・
少し落ち込もうかと思ったけど、
そんなことよりJIRO's CAFEがなくなることのショックが
大きくって、大きくって、大きくって、
あら、どうしたらいいのかしら、ってかんじだった。

今日も私は生活彩家の珈琲を飲んでいる。

生活彩家の珈琲を片手にJIRO's CAFEの前を通ると
看板が取り外されて、中が解体されていく眼の前で
JIROさんがいらした。
なんだか通行人なんだか?見知らぬ人なんだかが
その壊しちゃうドアをください
(本当に素敵なドアなんだけど)と言ってきたようで
工事現場の人が俺に許可なく「いいですよ」
って言っちゃったらしくて
しらねえやつにやりたくないから、
引渡しの立会いに来た
とおっしゃっていたとある人から聞いた。

生活彩家の珈琲を片手に持つ私は
足早にJIROさんの横を通り過ぎて、
オフィスに戻ってきてしまった。

でも今日は仕事を休んで、JIROさんと一緒に
その脇でJIRO's CAFEの解体現場を
じっと見ておきたいと思う。
脇からとか、上からとか、
正面からとか、中からとか。

でもそんな風にしたいのは
その歴史と今と空間と風を
じっと肌に吸い込ませたいからだ。
忘れてしまう前に
何を忘れてしまうのかを
最後にちゃんと、確かめにいくために。

しらねえやつにやりたくないから。

JIROさん、あのお店での
思い出だけはしらねえやつに
いかないと思うよ。

posted by にしもとちひろ at 22:19| Comment(4) | TrackBack(0) | これが私たちの住むまち | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 押忍。二度目の、ファンレターを書かせて頂くであります。

 私、東海道線大船駅から走って3分、祖父母が住んでいた家の“番人”として、2年少々住んでいたことがあります。(今は売却して、新たに4世帯が生活を営んでいらっしゃるはずです)

 本当に不思議なことですが、「青ヶ島」や「宝島」は、“夢”に出てこないのですが、「大船の家」は、今でも、しっかりと“夢”に登場します。

 前回は、西本さんの“繊細さ”を批判的に書いてしまいましたが、押忍。

 そんな西本さんの“繊細さ”って、とても素敵だと思います。

 「すべての人に、負けるな、を」
Posted by ごろごろ at 2009年06月02日 17:20
にしもっちゃん。ご無沙汰ー。
実は出産・子育てに専念してたりしてて、そんなこんなでこの半年以上CPSに行っていない間に、
こんなことになってしまったなんて、悲しすぎる!
だけど、めぐちゃんってのが私のことだったとしたら、登場させてもらって嬉しくって泣けたわ。
ありがとー
JIROさんとこのね、入り口の前にね、夏になるとひまわりが咲いていたのを思い出すの。
あの路地に場違いなぐらいに、立派に花を咲かせていたんだよね。
Posted by めぐちゃんって、私のことかしら。 at 2009年06月13日 13:59
>めぐちゃんって、私のことかしら

めぐちゃん、頻繁に
めぐちゃんのこと最近
ふにゃくらさんとか、おおたさんとかと
おはなしに出るよ!

赤ちゃん、あとからだは
大丈夫?!

お母さんになったなんて
本当に素敵なことで
本当におめでとう。∞
嬉しいです。

ひまわり咲いていたね。
思い出したよ。
なんだか、切ないね。
そうだね、綺麗に咲いていたねぇ。
なんか、おばちゃんみたいな
気持ちだよ。

また会えるひ楽しみにしています。
この前、みんなで
高円寺にもいったんだよ!

Posted by にしもっちゃん at 2009年06月13日 14:31
ちひろさん、初めまして、私もJIRO'S CAFEの近くにある会社に勤めているJIRO'S CAFEのファンのひとりです。
私はこのお店のウィンナーティーが大好きで、良く飲みに行っていたのですが、頼む人がすくないらしく、生クリームが傷むので、私が扉を開けると開口一番「生クリーム無いよ」のひとことで、コーヒーの苦手な私は、ミルク無しでは飲めないし、他に注文できそうなものが無かったのでしばらく行きませんでしたら、今日何気に路地から覗いたら取り壊されて駐車場になっていました。
ショックを受けていたら友人がちひろさんのブログを見つけてくれました。
JIROと言うのは飼っていた犬の名前だと聞きました。
人相はとっても怖かったけれど、動物好きで本当は心優しい人だと信じていました。
まるで置物のような猫ちゃんも死んでしまって、お店を続ける気持ちがうせてしまったのかと勝手に考えていました。
あの独特な雰囲気を持つマスターのファンだった私はちひろさんと同じ思いでいます。
転居先では何をしているのでしょう?
思わず書き込みさせて頂きました。
Posted by ikunak at 2009年08月18日 04:34
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